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京都地方裁判所 昭和39年(タ)3号 判決 1964年6月26日

原告 村山善子

被告 村山牧夫

被告 村山孝秋

被告 村山鈴子

右被告両名法定代理人父 村山牧夫

主文

原告と被告村山牧夫とを離婚する。

原告と被告村山牧夫との間の長男孝二(昭和三八年二月一日生)の親権者を原告と指定する。

原告と被告村山孝秋、同村山鈴子とを離縁する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

「(一)原告と被告牧夫は、昭和三七年一二月二七日、妻の氏を称する婚姻の届出をなした夫婦であり、その間に長男孝二(昭和三八年二月一日生)が出生した。

(二)原告は、昭和三七年一二月二七日、牧夫の連れ子である被告孝秋(昭和三一年一〇月二七日生)同鈴子(昭和三二年一〇月二一日生)との間に、牧夫(単独親権者)を代諾者として養子縁組の届出をなした。

(三) (1)牧夫は、孝秋、鈴子の二児を連れて、昭和三七年五月下旬頃より、原告宅に原告と同棲するに至つたものであるが、時日を経るに従つて、原告、原告の母らの家族と不仲となつていき、特に長男出生後は、連日の如く飲酒し、その上暴力行為に及ぶことすら稀ではなくなつた。

(2)牧夫は、昭和三八年五月三〇日夜、原告が知人の井上某に襟首の辺りを剃刀で剃つてもらつたことに立腹して、原告に対し、殴る、首をしめる等の暴行を加えて負傷させ、原告が一時親戚方に身を寄せている間に、『もうこんな家には居たくない』と公言して、連れ子の両名を伴つて、原告方を出て、現住所に移り住んでいる。

(3)原告は、昭和三八年七月上旬、京都家庭裁判所に再度離婚の調停申立(第一回の調停申立は、牧夫が協議離婚を承諾したので、取下げた)をなしたが、牧夫は、家裁の呼出にも応じないで、昭和三八年八月中旬、調停期日への出頭依頼のため牧夫方に赴いた原告に対し、暴行を加えて、負傷させた。牧夫は、原告との婚姻を継続する意思が全くないのであるが、ただ原告をこまらせるために離婚に応じないのである。

(4)しかも、牧夫は、原告の生活を破壊させようとして、昭和三八年末頃からは、原告の勤め先の工場主に種々のいやがらせをするのである。

(5)したがつて、原告と牧夫間の婚姻には、これを維持し難い重大な事由がある。

(四)原告が、牧夫の連れ子を養子となしたのは、原告と牧夫間の婚姻生活の円満のためであつた。しかし、(三)の如き事情のもとでは、原告と孝秋、鈴子らとの間の養親子関係にも、これを維持し難い重大な事由がある。

(五)よつて、原告は、牧夫との離婚、孝秋鈴子らとの離縁とを求めるものである。」

と述べ、

立証≪省略≫

被告兼被告孝秋、鈴子ら法定代理人牧夫は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

当裁判所は職権で、原告本人を尋問した。

理由

第一離婚請求について。

真正に成立したと認めうる甲第一号証(戸籍謄本)によれば原告主張の(一)の事実を認めうる。

証人吉川敏夫、同村山スエの各証言、原告本人の供述によれば、原告主張の(三)の(1)(2)(3)(4)の事実を認めうる。

右事実によれば、原告らの婚姻は、婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当する。

原告と牧夫間の長男孝二の親権者としては、孝二の年令、原告及び牧夫の現在並びに離婚後の生活状況等、種々の事情を考え併せてみると、原告を指定するのが相当である。

第二離縁請求について。

甲第一号証によれば、原告主張の(二)の事実を認めうる。

ところで、代諾離縁の場合、誰が代諾権者であるべきかについて、(1)当該縁組締結の際に代諾したかつての法定代理人であると解する説(かつての法定代理人説)、(2)現在の法定代理人であると解する説(現在の法定代理人説)、(3)離縁した後において当該養子の法定代理人となるべき者であると解する説(将来の法定代理人説)の三説が対立している。

当裁判所は、(3)の説を正当と解する。けだし、離縁の協議ないし訴訟において養子の利益を保護する者として、離縁した後において当該養子の法定代理人となるべき者が最適任者であると考えられるからである。

つぎに、代諾離縁の訴訟において、代諾権者は、養子のために職務上の当事者として訴訟をなしうる(訴訟代位)(民法第八一五条)とともに、養子を代理して訴訟をなしうる(法定代理)と解するのを相当とする。けだし、訴訟代位と法定代理とは、その形式を異にするけれども、その訴訟追行が本人の意思にもとづかない点においてその実質を同じくするものであり、人事訴訟において訴訟代位を認めうる場合に、法定代理を許しえない理由がないからである。

したがつて、本件の場合、養子孝秋、同鈴子の離縁についての代諾権者は、離縁した後に同人らの実父として法定代理人(単独親権者)となるべき牧夫であり、孝秋、鈴子を被告、牧夫を同被告らの法定代理人として、提起した原告の離縁の訴は適法である。

よつて、離縁の原因の有無について判断する。

原告本人の供述によれば、原告と孝秋、鈴子(いずれも牧夫の実子)間の本件養子縁組は、原告と牧夫間の婚姻生活の円満を目的としてなされたことが認められ、原告と牧夫間の婚姻は、前記認定のとおりの事情で、婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するから、原告と孝秋、鈴子間の縁組も、縁組を継続し難い重大なる事由あるときに該当すると解するのが相当である。

よつて、原告の本訴請求は、いずれもこれを認容し、親権者の指定につき人事訴訟手続法一五条、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

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